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『夜の訪問者』サスペンスからアクションへ、時代を繋ぐテレンス・ヤングの仕事

 

夜の訪問者(De la Part des copains/ Cold Sweat)

 

夜の訪問者』 : 映画大陸

 

↓予告編(字幕なし)↓

youtu.be

 

〈あらすじ〉

妻子と共に平和な暮らしを営んでいたジョーに、かつての仲間が接近してくる。妻子を人質にとられ、麻薬を運ぶ仕事を強要された彼は、ボスの情婦を誘拐して対抗するが……。(allcinema ONLINEより引用)

 

 

テレンス・ヤングの代表作と言えばやはり『007』だろう。

シリーズ1作目の『ドクター・ノオ』、二作目で傑作の呼び声高い『ロシアより愛をこめて』、そして007のお約束フォーマットを完成させた『サンダーボール作戦』の初期作を監督し、シリーズの方向性を決定づけた立役者だ。そんな007は今に至るアクション映画の元祖とも言われている。

 

しかしその評価と裏腹に、監督であるテレンス・ヤングに言及される機会は圧倒的に少ない。そこにはテレンス・ヤングが作ってきた作品群が「歴史に残る名作!」といった感じではなく、良くも悪くも重すぎない娯楽作である事が大きいと思うのだが、テレンス・ヤングが果たした業績というのは評価に対して意外と重大なのではないか?

 

では、テレンス・ヤングの業績とはなにか。『007』のようなアクション映画の元祖という評価も間違っていないとは思うのだが、その言い回しは少し過大に感じる。テレンス・ヤングがアクション映画というものを1から創造したという訳ではもちろんないからだ。そしてテレンス・ヤング自身もアクション映画というジャンルを作るつもりなどは毛頭なかったはずだ。

 

筆者が思うに、サスペンス映画からアクション映画へと時代を変遷させる繋ぎ目になった監督。それがテレンス・ヤングであり、それが彼の業績だ。

 

1970年にチャールズ・ブロンソンを主演に迎えて作られた『夜の訪問者』テレンス・ヤングがサスペンスからアクションへの変わり目の作家である事がよくわかる。

 

そもそもテレンス・ヤングはイギリスの監督だが、ハリウッドやフランスなどフットワークがとても軽い監督で、割と仕事を選ばない監督でもある(それが「名監督!」とならない大きな理由でもある)この『夜の訪問者』の次がアラン・ドロンチャールズ・ブロンソン三船敏郎の仏米日三大スター共演の西部劇『レッド・サン』だったりするところからも、仕事の選ばなさが伺える。

 

この『夜の訪問者』はチャールズ・ブロンソン主演のアクション映画として見ると、今の目にはアクションシーンも少なく、地味で渋い、言葉を選ばずに言えば物足りない一作に思える。後半に凄まじいカーチェイスシーンはあるが、アクションとしての盛り上がりはそこへ一点集中されていると言っていい。

だが、見てる間に退屈するのかと言われるとそういう訳ではない。そのアクションシーンに至るまでのサスペンスはとても上手く、ハラハラドキドキさせられる。

 

つまり、この作品をから、サスペンスがどんどん盛り上がり、アクションが発生していくという構造がよくわかってくる。サスペンス映画がどんどんと観客の要望に応えて過剰になっていくうちに、アクション映画と呼ばれるような作品へと進化して行ったのだ。

 

テレンス・ヤングフィルモグラフィーで『007』以外の代表作として挙げられる『暗くなるまで待って』はオードリー・ヘップバーン主演の純度の高いサスペンス映画だ。盲目の女性が目が見えないことから強盗たちに騙されて利用されるという設定と、暗闇に包まれることで立場が逆転するというアイディアから生み出されるサスペンス演出を見るだに、その力量に間違いはない。そして『暗くなるまで待って』のフォーマットは『ドント・ブリーズ』や『クワイエット・プレイス』などに形を変えて、現在でも通用しているのだから凄い。

またアクション要素を多めに作られた『ロシアより愛をこめて』も明らかにヒッチコックの『北北西に進路を取れ』を土台に作られており、逃げるボンドたちが危機に陥り、機転あるいは秘密兵器でそこを逃れるというのはいかにもヒッチコックっぽい緊張と緩和、つまりサスペンス映画の作り方だ!

 

『夜の訪問者』では、急に家を訪れた訪問者たちとの駆け引きが90分の上映時間の間ずっと展開される。敵は常に妻か娘を人質に取るがブロンソンも敵を出しぬき人質を手に入れて反対に優位に立ったり。共通の危機を脱するためお互いに譲歩するが、その譲歩のラインをどこに設定するかの駆け引きなど、とにかく濃厚な心理戦が展開される。

 

そしてクライマックスには銃を持っている側と持っていない側の心理的駆け引きと並行して出血多量で死にかけの人物を助けるため、ぐにゃぐにゃと崖道を車でぶっ飛ばすというカーチェイスが繰り広げられる。ブロンソン映画では『狼の挽歌』の序盤のカーチェイスもすごかったが、あんな危険な道をあのスピードで走り抜けるというのは中々見たことがない。何度か本当に崖に落ちそうになったりして、見てるこっちも気が気でない。さらに、その土台にはタイムリミットに間に合うか!間に合わないか!というサスペンスがあるため、このアクションシーンの快楽は桁外れだ。

さらにカーチェイス映画の元祖とも言われる『バニシング・ポイント』や『フレンチ・コネクション』が1971年製作だと考えると、あのスピード感は時期としてもかなり速いと言える。しかも、ロケーションがあの断崖絶壁だからな…。リアル頭文字Dだよ、本当…

 

50年代がヒッチコックなどサスペンス映画全盛期、そして70年代にアクション映画がどんどんと登場していくと考えると、その間の60年代を繋いだのがテレンス・ヤングたちの映画作家だ。時にはB級監督と扱いを受け、あまり顧みられることがない監督たちだが、彼らの残した影響はとても大きい。

その代表的な一人として、テレンス・ヤングの仕事はもっと評価されるべきだ!

 

 

 

夜の訪問者

De la Part des copains/ Cold Sweat

1970年 / フランス / 92分

監督 テレンス・ヤング

脚本 アルベール・シナモン、シモン・ウィンセルヘルグ

原作 リチャード・マシスン

撮影 ジャン・ラビエ

〈キャスト〉

チャールズ・ブロンソン、リブ・ウルマン、ジェームズ・メイソン、ジル・アイアランド他

 

 

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