ツイン・ピークス生活 46日目 『The Return第15章』さらば、丸太おばさん
ツイン・ピークス生活 46日目
The Return 第15章 手放すのが怖い
〈ネタバレを含みます〉
↓昨日の記録↓
既に一月半以上、ツイン・ピークスにどっぷり浸かる生活を続け、そろそろそれも終わりを迎えようとしている。最終盤に差し掛かったこのThe Return第15章では見続けていたからこその喜ばしい展開と悲しい展開があった。
一つ目の喜びは悪クーパーがついにコンビニエンスストアを訪れる
このコンビニがはっきりとした場所として登場した時点で、こちとら今日の分の元を取れている。オリジナル・シリーズで初めてクーパーが予知夢を見た日、殺人鬼ボブと共に現れた片腕の男が「コンビニエンスストアの屋根の上に悪魔が云々」と言ったのがこのコンビニとの出会いだ。そこからずっとこのコンビニは姿を見せることなくここまで来た。
不可思議な第8章で抽象的なイメージの一つとしてコンビニエンスストアが登場したが、そこにとうとう悪クーパーが訪れた!これだけで、もう快挙。
続きを読むツイン・ピークス生活 45日目 『The Return 第14章』自分は作り話の登場人物と勘づき始めている?
ツイン・ピークス生活 45日目
The Return 第14章 私たちは夢見人のよう
〈ネタバレを含みます〉
↓昨日の記録↓
The Return始まって以来(いや、ツイン・ピークス始まって以来)最も訳のわからない、前衛的だったエピソードはずば抜けて第8章だったと思うが、今回の第14章もそれに次いで色々と不可思議な事象が起こった回だった
オリジナル・シリーズとThe Returnでその雰囲気・味わいにかなり違いがあるようには常々感じている。その違いはTV番組としての縛りがなくデヴィッド・リンチが好き勝手作れる製作状況や25年の月日など色々と考えられるが、最大の要因は「軸となる筋がない」ことにある気がする
『ツイン・ピークス』も脇道に外れた町人たちの小話がかなりの割合を占めてはいたが、少なくとも絶対的な主人公であるクーパー捜査官がいた。彼の話を主軸としてそこに町人たちの話が紐つけられていくという作りだった
続きを読むツイン・ピークス生活 44日目 『The Return 第13章』チェリーパイに見る芸術と商業主義の葛藤
ツイン・ピークス生活 44日目
The Return 第13章 物語って何よ
〈ネタバレを含みます〉
↓昨日の記録↓
今日はいきなりギャングだらけの腕相撲大会から始まる
レイの裏切りによって腹に一発弾丸を喰らった悪クーパー。死んだかと思いきや、何事もなかったかのように蘇生。レイの隠れ場所へ堂々とやってきた。その隠れ場所はギャングの巣窟のようなコンクリート打ちっぱなしの建物。その場にそぐわない巨大モニターがある変な場所だ。
一人入ってきた悪クーパーをレイとギャング仲間たちは待ち構える。
そこで早速、悪クーパーは洗礼を受ける
このギャング団は腕っぷしの強いものが頭を張れる。つまり、腕相撲が強ければその集団の長になれるのだ。そこで14年間頭を張り続けている、いかにも強そうな長身で体格のいい男。彼に勝てばそのギャング団の頭になれる。
悪クーパーとしてはチームの頭はどうでもいいので、勝ったらレイの身柄受け渡しを要求する。
さあ、腕相撲対決の勝敗やいかに!!!
対決は予想通りの展開を迎え、悪クーパーはレイに尋問を始める(大事なのはここから)
悪クーパーはまず誰に殺すよう指示されたかを問う
その答えは、フィリップ・ジェフリーズだった
直接は会ったことはないが、電話で指示を受けたという。劇中で何度か挿入されるブエノスアイレスの電話、その向こう側にいるのがジェフリーズなのかもしれない
ジェフリーズは悪クーパーが握っているなんらかの情報を狙っているらしい
そしてもう一つ、レイは渡されていたものがあった。例の緑色の石のついた指輪だ。現実と異世界を繋ぐキーアイテムだ。以前見かけた時は赤い部屋に召喚されたダギーが持っていたはず。この指輪を悪クーパーの死体の薬指にはめろと指示されていたらしい。やはりこの指輪が異世界へ魂を送還するアイテムなのかもしれない
悪クーパーはずっと求めていた座標のメモをレイから受け取り、ジェフリーズの居場所を聞き出す。その答えは「ダッチマン」という店だった。
悪クーパーも座標を手にした。これはFBIチームが手に入れた座標と同じはずなので、悪クーパーもツイン・ピークスへと向かうはずだ。それとも、まずかつての上司フィリップ・ジェフリーズに会いに行くのか…?
腕相撲ギャング団にはたまたま転がり込んでいたリチャード・ホーンもいた。彼もこの悪クーパーと行動を共にすることになるかもしれない。
ラスベガスの善クーパー/ダギー以外のパートはツイン・ピークスへと物語が集まってきている。この善クーパーのパートだけがどうなっていくのかさっぱり見当がつかない。
ただこの善クーパーはまさに善なる存在で、彼と接することで周囲の人たちに善の心が芽生えていくらしい。
この『ツイン・ピークス』ではホワイト・ロッジとブラック・ロッジのような善と悪の二項対立が語られ続けている。だが描かれるのはその対立の中にいて、どちらにも振り切れない、あるいはどちらにも振り切れてしまうものとして描かれている。その善と悪を併せ持った人間の象徴としてリーランドと殺人鬼ボブのような二重人格が発生する。
今までは善クーパーが元のクーパーで悪クーパーがもう一つの別人格と考えていたが、善だけでも元のクーパーではなく、悪だけでも元のクーパーではない。その二つが融合しその葛藤状態におかれることで真のデイル・クーパーが復活するのではないか?
そんな大層な抽象概念の話とは別にツイン・ピークス町内では等身大の出来事が起きている。
ノーマのダイナーにビジネスマンらしき男がやってくる。この男は今や本店も含め5店舗へ事業を拡大しているノーマのダイナーを統括するマネージャーらしい。
全体で見ると売り上げはとても好調だが、ノーマ本人が経営する本店は赤字らしい。そこで何が問題か計算したところ、チェリーパイがコストが高い割りに利益が少なく、採算が合わないと告げられる。
しかしノーマは断固として反対する。チェリーパイは彼女のこだわりの一品であり、その味に誇りを持っている。丹精と愛を込めてチェリーパイを作っている。
だが、その丹精や愛はお金にはならない。ビジネスで考えれば、味は落ちても利益が出る方がいい。
この話は本筋とは全く関係してこないと思うが、なぜか心に残った。そして、このノーマと創造主であるデヴィッド・リンチ自身を重ねてしまった
リンチのフィルモグラフィは芸術と商業主義の戦いの歴史とも言える。自分が本当に作りたい、こだわりの作品と世間にウケる作品の狭間に最も苦しんだ映画作家と言っていいかもしれない。キャリア初期の『デューン』での失敗や、この『ツイン・ピークス』もその軋轢は大きかったはずだ。だからこそ、『The Return』は全て自身で制御し、自由に作るという条件の元、25年越しの続編となり得た。
ノーマがチェリーパイにかける情熱と、リンチが作品にかける情熱は同じのように感じ、不思議と心に残るシーンだった。
後半付近ではまたもオードリーとその小さい夫チャーリーが登場
またもよくわからない会話をしている
ただ、今回は前回とはまたちょっと様相が違う。オードリーは不意に「自分が自分ではない気がする」と言い始める。この『ツイン・ピークス』ではよく起こるシチュエーションではあるが、その大抵の場合は何者かに取り憑かれて操られている。25年前にオードリーが銀行の爆破事件に巻き込まれている件も気に掛かる
さらに不思議なセリフが。ロードハウスへ目下捜索中のビリーを探しにいくオードリーに対し、夫のチャーリーは「ゲームを終わらせないと君の物語も終わらせるぞ」と発言。それに対しオードリーは「通り沿いに住んでた少女の物語のこと?」
通り沿いに住んでいた少女とはローラ・パーマーに間違いない。そしてその物語とは今見ている『ツイン・ピークス』だろう。
なぜ急にオードリーはそんなメタな発言をし始めたのか?
そもそもこのオードリーとチャーリーはずっと同じ部屋にいるが、ここは現世か?
そして、なぜそんな超然的な視点をオードリーが持っているのか
一気によくわからなくなってきた
↓最近の記録↓
↓1日目から↓
↓The Returnから↓
『ハリエット』こんなにカッコいい偉人を知らずに今まで生きてきたなんて
ハリエット Harriet
↓予告↓
ハリエット・タブマン。
この人を知っている人は日本では少ないと思う。言ってしまえば、彼女の成し遂げた偉業も身を投じた戦いも日本人には関係のないことでしかない。だが彼女の生き様のカッコよさは史上トップ級だ。こんなにカッコいい人、他には中々いないとすら思う。
この『ハリエット』は題名の通り、そんなハリエット・タブマンの生涯を描いた作品である。受賞にこそ至らなかったものの、今年のアカデミー賞で主演女優賞、主題歌賞にノミネートされた。
はっきりといってしまうと映画作品としては粗が多く、全肯定という作品ではないと思っている。実際、アメリカの批評家サイトなどでもそういう意見は多いようだ。
ただ、このハリエット・タブマンというこの実在の人物の物語に心底度肝を抜かれ、その生き様のカッコよさに心酔してしまった。その出会いの力の衝撃を与えられたというだけでも、この映画を見る価値は十分にあった。また、この人を全く知らないという人がいるのであれば、筆者と同じようにこの作品こそ彼女を知る絶好の機会には違いない!
そういう想いからこの『ハリエット』を推さずにはいられない
続きを読む